【微忙録】

明日の自分への覚え書き

桃太郎面接

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桃太郎はずんずん行きますと、大きな山の上に来ました。すると、草むらの中から、「ワン、ワン」と声をかけながら、犬が一ぴきかけて来ました。

桃太郎がふり返ると、犬はていねいに、おじぎをして、

「桃太郎さん、桃太郎さん、どちらへおいでになります」

とたずねました。

「鬼ヶ島へ、鬼の討滅に参ります」

「お腰に下げたものは、なんでございます」

「当社のきびだんごです」

「ひとつわたしに下さいな、お供をしましょう」

「犬さんを雇用する事は当社にとってどのようなメリットとなるとお考えですか」

「はい、私は学生時代、ボランティア活動に打ち込み、ご年配の方のヘルパーとして、掘削活動をし、その中でサブリーダーをしておりました。活動の中で、人に喜ばれる事で得られる喜び、信頼関係を築く事の重要性を知りました。また、その中では懇意にさせて頂いていた方から離れ、別の方のヘルパーとして働くこともあり、成果を上げられなくなった時期もありましたが、そういった失敗体験も、自分を形成する糧になっていると思います。また、枯れた木に桜を咲かせるプロジェクトにも参加しており、環境保護活動にも関心を持ち、精力的に取り組んでいます。御社ではそういった経験を活かし、様々なニーズに応えられるよう努め、また、鬼の殲滅によって、自分もお客様も笑顔にできる、そういった助けになれたらと考えております。」

「ありがとうございます。以上で面接を終わります。結果は後日お伝えします、次の選考でもお会いできることを楽しみにしております。本日はお疲れ様でした」

「お疲れ様でした。失礼致します。」

こうして犬は結果通知に心弾ませ、去っていきました。

 

山を下りてからしばらく行くと、こんどは森の中に入りました。すると木の上から「キャッ、キャッ」とさけびながら、猿が一ぴき、かけ下りて来ました。

桃太郎がふり返ると、猿はていねいに、おじぎをして、

「桃太郎さん、桃太郎さん、どちらへおいでになります」

「鬼ヶ島へ、鬼の壊滅に参ります。」

「お腰に下げたものは、なんでございます」

「当社のきびだんごです」

「ひとつわたしに下さいな、お供をしましょう」

「猿さんはネゴシエーションが得意、との事ですが、それが明確に顕れている具体的なエピソードを教えて頂けますか」

「はい、私は学生時代から小規模ながら積極的にビジネスに取り組み、その中で様々な経験を積みました。具体的なエピソードで言いますと、大きなサイズのおにぎりを持て余している甲殻類の方に、私の持っていた柿の種との交換を提案、交渉し、成功しました。結果として、その種は多くの実を結び、お客様の笑顔と、その仕事での利益との両者を得ることができました。苦労はありましたが、仕事の大変さと、それを払拭してくれるお客様方の感謝の言葉のありがたみについては、御社を志望する他の学生さんたちよりも、一歩先に理解していると思います。そして私のこの交渉術は、鬼に対しての平和的な解決策を提案する際に有用だと考えます。」

「そういったビジネスに取り組んでいらっしゃると、様々な経験があると思うのですが、その中でも失敗談などは何かありますでしょうか」

「仕事の結果がお客様のご期待に添えないものになってしまった時には、お客様のご家族並びにご友人からお叱りを受けた事があります。ただその経験も、ここで折れてしまうのではなく、次の仕事に活かそうと心持ちを新たにする事が出来た、良いきっかけになったと思います」

「ありがとうございます。以上で面接を終わります。結果は後日お伝えします、次の選考でもお会いできることを楽しみにしております。本日はお疲れ様でした」

「ありがとうございました。失礼致します」

こうして猿は次の企業の選考へ、足早に向かって行きました。

 

山を下りて、森をぬけて、こんどはひろい野原へ出ました。すると空の上で、「ケン、ケン」と鳴く声がして、きじが一羽とんで来ました。

桃太郎がふり返ると、雉はていねいに、おじぎをして、
「桃太郎さん、桃太郎さん、どちらへおいでになります」

「鬼ヶ島へ、鬼の撲滅に参ります。」

「お腰に下げたものは、なんでございます」

「当社のきびだんごです」

「ひとつわたしに下さいな、お供をしましょう」

「雉さんの長所と短所を教えて頂けますか」

「はい、私の長所としては、よく通る大きな声が挙げられます。常にハキハキとした言動で、相手とのコミュニケーションを円滑にし、お互い良い雰囲気づくりが出来ると思います。また、この声を活かして、鬼を成敗する際には、上方、遠方からも伝わりやすい指示を出すことで貢献できると考えます。次に私の短所としましては、同じくこの大きな声であると思います。声を潜める必要のある機会にも、時々大きな声を出してしまい、不利益を被った事もあります。こういった長所と短所の持つ二面性、使い方によっては良い方にも悪い方にも傾くようなものや方法は、社会に出て、実際の仕事にあたる際にも少なからず遭遇すると思うのですが、そういった時には、自分の長所と短所を省みて、慎重な扱いを心掛ける事が出来ると思います」

「ありがとうございます。以上で面接を終わります。結果は後日お伝えします、次の選考でもお会いできることを楽しみにしております。本日はお疲れ様でした」

「ありがとうございました。次の機会もよろしくお願い致します。お疲れ様です、失礼します。」

こうして雉はどこか気落ちした様子で飛んで行きました。

 

山を下りて、森をぬけて、ひろい野原を抜け、そこで見つけたポストに、桃太郎は二匹と一羽分の採用通知を投函し、海に辿り着きました。

どんぶらこ、どんぶらこと船を漕ぎ、鬼ヶ島へと辿り着きました。

門番の鬼に、アポなしで来訪した事を深く詫びつつ一刀のもとに斬り伏せました。

桃太郎はあくまで冷静に、鬼の腰巻を懐紙がわりに血糊を拭い、固く閉ざされた鉄の門を自慢の腕力で開け放ちました。それに気付いた鬼達が、見慣れぬ来訪者を血祭りにあげようと、雄叫びを上げながら雲霞の如く迫ってきます。銀閃が走ったと思えば、そこには幾多のこと切れた肉塊、桃太郎の姿は遥か先方です。鬼が束になって掛かろうが、桃太郎が歩みを止ることはありません。桃太郎の一太刀を浴びても尚息のある鬼の中には、命乞いをする者もおりました。しかしながら、死に瀕したからといって、これまでの悪逆非道が免罪される事はありません。桃太郎はそういった手合いに次々と引導を渡します。島中に響き渡る阿鼻叫喚、怨嗟の声に呼ばれてか、一際大きな鬼が現れました。

 

「随分と好き放題やってくれたようだが、名はなんと申す」

「桃太郎と申します」

「何が目的だ」

「鬼の全滅に参りました」

「腰に下げているものは」

「祖父が鍛えた銘もなき刀と、祖母の持たせてくれた日本一のきびだんご、そしてあなた方、鬼どもの首です」

「全て置いて、我らが軍門に下れ、そうすれば命は助けてやろう」

「恐れ入りますが、合併のお話はお受け致し兼ねます。弊社も来年度の選考が進んでいる都合がありますので」

「そうか、どうやら話の通じない輩のようだ。言い遺した事はないか」

 「はい。こちらからは以上ですが、最後に何か質問はありますか?」

 

めでたし、めでたし

 

参考:楠原正雄『桃太郎』(出典:青空文庫)

楠山正雄 桃太郎

 

ロジカル面接術 2019年度版

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